8.4.4: 重炭酸緩衝系と肺とによるpH調節

Henderson-Hasselbalchの式

重炭酸緩衝系の平衡式(H++HCO3-←→H2CO3←→H2O+CO2)から、
  
  pH=6.1+log (HCO3-濃度/CO2濃度)

が導かれます。すなわち、血漿のpHは重炭酸イオン(HCO3-)濃度(mEq/L)のCO2濃度(mEq/L)に対する比で決まります。また、CO2濃度(mEq/L)はCO2分圧(mm Hg)×0.03(分圧をモル濃度に変換する溶解係数)と等しいので、上式は

pH=6.1+log(HCO3-濃度/CO2分圧×0.03)
  =7.62+log(HCO3-/CO2分圧)

 
とも記載できます。

式の意義

血漿のpHは重炭酸イオン(HCO3-)濃度のCO2濃度(分圧)に対する比で決まる、とのことは、平衡式をみるだけで理解できることです。しかし、Henderson-Hasselbalchの式により、実際の数値を代入することが可能です。運動などで数値がどのように変化するかを検討することにより、平衡式の理解が深まると思われます。
 
 安静時運動時
動脈血動脈血
乳酸濃度(mEq/L) 1 5
HCO3-濃度(mEq/L) 24 20
CO2分圧(mm Hg) 40 34
HCO3-/CO2 0.6 0.588
log(HCO3-/CO2) -0.22 -0.23
pH 7.40 7.39
H+濃度(nEq/L) 40 41

Doll E, et al. (Am. J. Physiol. 215:23-29, 1968)のデータを参照。14名の健康な平均年齢24才の男性におけるデータです。運動は自転車エルゴメータで50Wで6分間、つづいて100Wで6分間、つづいて150Wで6分間運動したときのデータです。
 
 
 
 
 



気づいていただきたい点は...
  • pHを決定するH+濃度の単位がnano (10-9)であり、乳酸濃度などの単位milli (10-3)と比較すると100万分の1である。
  • はげしい運動の筋肉運動により乳酸濃度が増大すると、HCO3-が消費(安静時,24mEq/L;運動時,20mEq/L)される。しかし,換気の亢進のため、動脈血中CO2濃度が減少(安静時,40mmHg;運動時,34mmHg)し、HCO3-/CO2比は、安静時と比べて、あまり減少しない.結局、H+濃度はあまり上昇せず、pHもあまり減少しない。
  • 運動による乳酸濃度の増加は生存可能なH+濃度範囲(20-100nEq/L, pH:7.7-7.0)と比べて桁違い(1->5 mEq/L)に大きい。ビーカに5 mEq/Lの乳酸のみの溶液があると、そのpHは約3.5になる。この大量の酸性物質にもかかわらず、pHの変動が極小なのが上記の理由による。なお、HCO3-が消費(安静時,24mEq/L;運動時,20mEq/L)されるだけで、CO2濃度が減少しなかったら、HCO3-/CO2比は、0.6から0.5に減少してしまい、pHも7.32まで低下する。

チャレンジクイズ

1 運動により筋から乳酸が血中に放出された。血漿緩衝系がなければ、乳酸が遊離するH+はpHを 低下 上昇 させてしまう。しかし、血漿緩衝系、特に、重炭酸緩衝系の重炭酸イオンは アルカリ性 酸性 物質であり、H+と結合することで、運動時のH+の 減少 増大 を緩衝する。この際、重炭酸緩衝系は 

H+ +HCO3- → H2CO3 → H2O +CO2
H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2
の方向に作用し、重炭酸イオンは 増大 減少 する。さらに、運動時、換気が亢進することにより動脈血CO2濃度が 減少 増大 し、この変化も(は)重炭酸緩衝系を 
H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2
H+ + HCO3- → H2CO3 → H2O + CO2
の方向に作用させ、重炭酸イオンの緩衝作用を 助長 阻害 する。

2 安静時,動脈血に比べて静脈血のpHは 低い 高い 同等である .これは,筋肉など各臓器が 重炭酸イオン CO2 乳酸 重炭酸 リン酸 を放出し,肺での排出のために動静脈間で濃度差があり,重炭酸緩衝系はこれに対して静脈内で 

H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2
H+ + HCO3- → H2CO3 → H2O + CO2
方向へ作用しているためである.

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